――古賀 弘道視点
1号機の前に立つのは、何年ぶりだろうか。
辞めたわけじゃない。ただ、病欠ということにされて、静かに現場を離れただけだ。
俺はもう、この会社にとって“終わった人間”だと思っていた。
だから、まさかまたこのフロアに足を踏み入れることになるとは思っていなかった。
きっかけは、柚木からの一本の電話だった。
「1号機、再生することになったの。……古賀さんにしか、触れられないって、みんな言ってる」
そう言われたとき、心の奥に置きっぱなしだった何かが、静かに動き始めた。
現場に入ると、若い連中が何人も集まっていた。
顔を知っているのもいれば、初めて会う奴もいた。
中には緊張した面持ちで、俺に挨拶してくるやつもいた。
「古賀さん、1号機って……ほんとに、まだ使えるんですか?」
その声に、俺はゆっくりと首を縦に振った。
「この機械は、何も終わっちゃいねえよ」
整備されたばかりの配管に手を添え、オイルの流れを確認する。
熱板は入れ替え済み、循環ユニットは最新型だが、土台は昔のままだ。
昔の技術と、今の工夫が、同じフレームに収まっている。
その姿は、どこか俺自身のようでもあった。
村井が図面を広げながら、細かな動作チェックをしていた。
その姿を見て思った。
この機械を動かすのは、もう俺じゃない。
こいつらなんだ。
俺たちが何十年かけて守ってきたものを、こいつらは違う方法で、同じ目的に向かって動かそうとしている。
それは、機械の再生なんかじゃない。
——“現場の思想”そのものの継承だった。
今までは、新しいものがいいとされてきた。
最新の制御、最新の設備、補助金で買えるならとにかく新しく、古いものは捨ててきた。
けれど、今、目の前で起きているのはその逆だ。
古いものを捨てない。
傷んだ部分だけを入れ替えて、まだ使えるところは徹底的に活かす。
そして、次に壊れる前に交換する。
点検する。記録する。皆で守る。
それが、これからの時代なんだろう。
若い連中は、俺のように手の感覚で機械を語らない。
でも、その代わりに数字とロジックで、設備を永く使う仕組みをつくっていく。
それはそれで、悪くない。
試運転が終わり、静かに動きを止めた1号機の圧板に、俺は手を乗せた。
「ありがとうな」
誰に言ったのか、自分でもわからない。
でも、この場所で終われることが、俺にとっては“再生”だった。
「古賀さん。そろそろ、昼飯でも行きましょうよ」
声をかけてきたのは、村井だった。
こいつなら、きっと大丈夫だ。
俺の残した“空気”を、こいつは数字と行動で引き継いでいく。
俺はそれだけで、十分だった。
「じゃあな。……あとは、任せたぞ」
そう言って背を向けた俺の背中に、
1号機の静かな鼓動が、確かに残っていた。
もくじ
【総括コラム】—— “再生”とは、信頼と資産をつなぐこと
〜「壊れたから捨てる」時代を越えて〜
ZeroPress再生ストーリーは、1台の止まったホットプレスから始まりました。
それは単なる設備の話ではありません。
「会社という現場が、何を大切にして進むのか」という、価値の問い直しの物語でした。
🔸“壊れたから買い換える”が当たり前だった時代
大量生産・大量消費の流れの中で、長く日本の製造業は「古い設備は切り捨て、新品を入れる」ことが正解とされてきました。
補助金、納期、見た目の性能。すべてが“新しさ”を正義とする方向へ背中を押していたのです。
けれど、私たちがいま直面しているのは、技術的な限界ではなく、選択の問題です。
設備も、組織も、人も、壊れたら捨てるしかないのか?
そうじゃない。「再び活かす」ことは、できる。
🔸ZeroPressが示した「モジュール再生」という選択肢
ZeroPressが提示したのは、すべてをやり直すのではなく、
・使える部分を活かし
・壊れた部分だけを交換し
・更新計画を立てて守り続ける
という、“現実的な再生”の道でした。
それは、新品に負けない機能を、段階的に・必要なだけ導入できる設計思想。
そして、ただのメンテナンスではなく、信頼とノウハウを未来へつなぐ設計でもありました。
🔸人の再生。組織の再生。
1号機とともに歩んできた古賀。
会社のために外で頭を下げてきた専務。
現場に飛び込み続けた村井。
影で支え続けた柚木。
そして、静かに技術と思想を届けにきた板倉。
彼らの姿を通じて描かれたのは、単なる機械修理ではなく、
「もう一度信頼を取り戻す」ことの重みと尊さでした。
🔸次に“再生”されるのは、私たち自身かもしれない
この物語の本当の主役は、設備でも登場人物でもありません。
それを読んで、「自分の現場で何ができるか」を考え始めたあなたです。
新しい時代の“正解”は、もう決まっていません。
だからこそ今、
・古いものに向き合い
・人の声に耳を傾け
・信頼をもう一度築く
そうしたひとつひとつの行動が、未来の「再生」をかたちづくるのです。
あなたの現場にも、“再生”の可能性は
眠っているかもしれません。
ZeroPressでは、古いホットプレスを捨てずに活かすための「再生プラン」「モジュール更新」「部分修理」のご提案を行っています。
図面がなくても、動かなくても構いません。
まずは、現場の声を聞かせてください。そこから再生が始まります。